慢性痛と慢性痛症

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じぶんに目覚める 4つのメンタルセラピートップ


痛みは痛覚受容器によって感知されます。
何らかの刺激で痛覚受容器が興奮し、その信号が脳に伝わり、痛みを感じます。
この痛みが急性痛です。

慢性痛という言葉をよく耳にしたり口にしたりしますが、
一般的には長い期間痛みが続いている時に用いています。
臨床的にも期間に視点をおいて使われている場合がほとんどです。
この慢性痛の中には、ただ単に急性痛が長引いているものと痛みの発症メカニズムが
まったく異なる慢性痛症とが含まれています。


慢性痛症の痛みは、急性痛のような
傷害部の痛覚受容器の興奮によって伝えられる痛みではありません。
このことは、急性痛に効果のある消炎鎮痛薬(NSAIDs等)や医療用麻薬(オピオイド)が
効かないことから明らかです。
つまり、元の病巣が治癒しているにもかかわらず痛みが起こっているという病気です。

組織の傷害がないのに痛いということはいったいどういうことでしょうか?

本来、痛みというものは危険を感知するために備え付けられた機能です。
痛みは症状として現われて、警告信号として働き、どこかに病巣があることを知らせます。

しかし、慢性痛症で発生している痛みは、神経系に何らかの可塑的な変容が起こったために
発生していることが明らかになっています。
強い痛みの持続や神経の傷害(ニューロパシー)によって起こるとされています。

これらのことから、慢性痛症では痛みそのものが病気の本体であり、
急性痛の場合のような症状としての痛みではないということが明らかです。

慢性痛症は、痛みが起こってからの期間だけでは鑑別できません。
長期間にわたって痛みが続いている場合でも、痛みのために身体をかばったりすることから
二次的三次的に障害が発生している場合もあり、
また、組織の傷害が次々に起こっている場合もあります。


この慢性痛症には、現在、決定的な治療薬はなく、その開発が待たれるところですが、
諸外国(欧米だけでなく)では学際的なチームによって一人の患者にアプローチをする
学際的痛みセンターが効果をあげています。

諸外国の学際的痛みセンターでは、さまざまな痛みをもった患者を扱っています。
痛み専門医を中心に、患者の病態に関係の深い診療科の医師たち、臨床心理士、看護師、
理学療法士などがチームをつくり、患者ひとりひとりにあった
治療のプログラム(2〜3週間のものが多い)を作成します。

治療の最終的な目標は、1)機能を最適レベルに回復させる、2)痛みを減少または除去する、
3)習慣的な服薬を減少または除去する、4)医療機関に頼らず生活できるようにする、
5)Quality of Life (QOL)を改善する、などです。
このような社会復帰に向けての目標だけでなく、患者は日々の目標を設定して、
治療プログラムに取り組みます。


なぜ、学際的な取り組みが必要なのでしょうか?

慢性的な痛みに苦しんでいる患者は、その背景にあるものは複雑です。
これまでの経緯と病状を考えて診断を下すには、
複数の専門の医師による評価が必要となります。
また、長い期間痛みに苛まれているうちに二次的三次的にも不具合が生じています。
例えば、一方の足が痛ければ、それを庇うために他方の足にも障害がでるように。
さらに、長期にわたる苦痛のため、精神面においても不調を起こし、
家族関係などの人間関係にも複雑さが及んでいる場合が多くあります。
こういった意味から複数の診療科の専門医の有機的な繋がりが必要になります。

この長い歴史をひきずった複雑な背景をもつ慢性的な痛みの治療には、
「○○○病だから、この治療を」といったコースメニューのようなわけにはいかず、
個人対応のアラカルトが必須条件となります。

日本では、一つの病院の中で一人の患者が複数の科に受診している場合が多く、
一見すると学際的アプローチを受けているように考えられがちですが、
真の意味の学際的アプローチの診療体制はまったく違ったものです。

諸外国の学際的痛みセンターでは、診断や治療にかかわった医師たちと
コメディカルの全員が顔を合わせるというミーティングを頻繁に行ない、
一人一人の患者の状態について、それぞれの担当からフィードバックをします。
痛み専門医を中心に、それぞれの専門家たちが有機的に集合して診療に携わっています。

欧米諸国と日本では、診療の体制、保険の制度などに違いがあり、
どのような形の診療がこの日本に一番適しているかという
議論を深める必要はありますが、
現在では欧米諸国だけでなく世界各国に学際的痛みセンターは設立されています。

痛みの医療が日本に比べて遙かに進んでいるアメリカでは、慢性的な痛みに対して
学際的アプローチをする施設は300を越えています。
これほどの数があってもまだ不足しており、慢性的な痛みをもつ患者は、
診療を申し込んでから診療を受けるまでに何ヶ月も待たされることが常になっています。
また、ある一面では、この学際的痛みセンターの存在や治療についての
情報が行き渡っていないという事実もあり、これを考えあわせると、
慢性的な痛みに苦しんでいる人の数は莫大なものであるということがわかります。

コメディカル=医師・看護師以外の医療従事者

(山口佳子、熊澤孝朗)

山口佳子、熊澤孝朗:愛知医科大学痛み学寄附講座ホームページより」


                   
自力整体 予防医学指導士 土田晶子

                        
 
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